私たちは、「これは安全だよ」という食品を買って食べる事に慣れすぎている。
例えば、麹や味噌や納豆、ザワークラウト、パンもそうだね。こういった発酵食品を作って匂いをかがない人はいない。香りを楽しむと同時に、本能的に安全性も確認している。
料理を食べるときに匂いをかぐ仕草は行儀が悪いという見方がある一方で、ワインの楽しみとして香りのウエイトが大きいのも事実である。
私たちが動物である以上、食べ物の匂いをかぐという行為は、「安心して食べる」から始まって、様々な記憶や本能と結びついているに違いない。
料理に求められるのは単にいい匂いの料理というだけではなく、食べる人の記憶や創造力に訴えるフレーバーコーディネートではないかと思う。
胡椒の香り、スモーク臭、柑橘の香り・・。
盆栽を眺めて、深山に身を置く自分を想像したり、楽茶碗を手にして宇宙を感じるということと同じように、日本人は特に、食材から様々な記憶を辿る潜在能力が備わっているはずだ。
知人に連れられて毎年行くコゴミ採り。一年に一度たらふくいただく。
たっぷりあるコゴミの食べ方は、「さっと茹でたものをマヨネーズやマヨネーズ醤油で食べるのが一番美味しい。」と人もそう言うし私もそう思うが、やはりそれだけでは新鮮味に乏しい。
ここ数年の定番はコゴミパスタだろう。アルデンテに茹でたパスタにコゴミをたっぷり入れて食べる。味付けはアーリオ・オーリオでもいいし、バター醤油でも、アサリと昆布出汁でも。
そんななか、とりわけ昨日のコゴミは印象的だった。
知人からいただいたオリーブオイル。白トリュフの香りがするという。(Stefania Calugi - Condimento al gusto di Tartufo Bianco)
「コゴミの温製サラダ」
塩を多めに入れて茹でたコゴミをサラダの水切りで思いっきり水を飛ばし、そこに塩を振って皿に盛り、このオリーブオイルをかけてみた。すると・・
濃厚なオリーブオイルとトリュフめいた強烈な香り、それに新鮮なコゴミのいかにもシダでちょっと土っぽい匂いとぬめりに加えて、
山菜採りでカヤの枯れ草の上をひたすら歩きながら、ポカポカと暖かくなってきた春の日差しを浴びて、草や土の蒸れたような匂い。やわらかな風に運ばれてくるホトトギスの鳴き声・・。
そんなものが一斉に湧きながら、まるで自分が豚か猪になって野山を嗅ぎあさっているような気分になったのである。
論より証拠とはよく言ったもので、料理に欲しいのはこんな発見なのだ。
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